森下茂道場長
そいつが高校1年の春に野球部に入った時、165cm53kgと小柄できゃしゃな選手だった。1つ学年が上の指導者係の先輩達が教えてくれるトレーニングについていくのが精一杯だった。
しかし、冬場のトレーニングを必死になってやっていると、ある時、練習の最後にやっていた12分間走で、先頭グループについていけるようになった。
体育の授業の持久走でも、毎回トップ争いできるレベルになっていた。
体つきも明らかに変わり、筋肉という鎧が初めてついていた。そんなことが認められたのか、そいつは2年生になると、1年生の指導者係に任命された。
指導者係は、夏季大会が終わるまで毎日1年生の練習メニューを考え、1年生の指導にあたる。つまり、自分の練習は出来ないのだ。人前で話すのが大の苦手なそいつだが、来る日も来る日も純粋な1年生を前にして、必死になって何かをしゃべっていた。たぶん、上手く話そうなんて考えたことはない。とにかく、思いを1年生にぶつけていた。
そんな男が、自分達の代になると試合に出れる実力がないのに副主将に選ばれた。その前の半年で、そいつは劇的に成長していたのだが、副主将になってからは苦しかった。トレーニングはやればやるだけ結果が出たのに、野球の技術面の向上はそう簡単にはいかなかった。迷いに迷った1年だった。しかし、そんな時、本を読むことが救いになった。自分はどうしたらいいのか?
どうやったら強くなれるのか?
自分って何なのか?
人生はどうやって生きていけばいいのか?
長くなったが、そいつは高校3年間で
「やればできる」という経験と「挫折」という経験と、そして「考える」という習慣を手に入れることができた。30年以上前のことだが、はっきりと言える。少年は間違いなく青年へと変わることができた。
そして、50になった私にできることは「やれば変わる」「挫折」しても逃げずに闘ってみいという、そのことを選手たち伝えることなのだと思う。
「誰にも、”できない”なんていわせるな。この世界でどう生きていくかは、君たちが決めていくんだ。」